過去の仕事上のかかわりですが、「できるだけ長く自宅に過ごしたい」ということを言語化して教えてくれたAさんという人がいます。
Aさんのこと
Aさんは、70歳代後半の女性です。Aさんはとてもしっかり自分の考えをもって今までの人生を楽しんできたのだろうなと思う、素敵な女性でした。
Aさんは心臓が悪くて長距離の歩行ができません。それ以外は、手足が悪い訳でもないので、家の中での生活は、休みながらであればほとんどこなせます。毎日の決められた薬をきちんと服用し、塩分を抑えた食生活を維持して、無理さえしなければ、自宅での生活を続けることが可能でした。
しかし、心臓の悪い高齢者は退院して暫くすると、入院が必要になることがよくあります。Aさんの場合も例外ではありませんでした。
Aさんが入退院を繰り返す理由
Aさんは薬の管理はきちんとできます。自分で調理をするので、塩分のコントロールも可能でした。ところが、車の運転はできません。近くのスーパーまで歩いて行かれます。でも、例え近くとは言え、Aさんにとっては、買い物は心臓への負担を大きくします。
往復の道中は何度も休まなければスーパーにたどり着けません。自宅とスーパーとをつなぐ道は、平坦なので心臓に負担は少ない様に見えますが、それでも病院の真っ平な床とは違います。アスファルトのちょっとしたくぼみや段差が運動負荷を上げるのです。また、スーパーの店舗内の移動、レジの待ち時間、荷物を持っての帰路など、いくつも問題点があげられます。
結果として、病院で心臓の治療をしても、退院すれば自宅での生活は心臓への負担となることがあるため、すぐに病院に逆戻りです。
Aさんが自宅生活にこだわる理由
Aさんの娘さんは、Aさんに同居を提案しますが、Aさんは決して首を縦に振りません。
Aさんは、「旅行に行ったら、楽しいし、帰りたくなと思う。そして、また行きたいと思う。だけど、自宅に戻ったら、『あ~自宅は良いな。落ち着く』と思う。それと一緒。娘の家で暮らすことは嫌じゃない。だけれども自宅がいい。」とおっしゃいました。この言葉を聞いて、私は何も言えないというか、この気持ちをストンと理解することができました。
誰かに気兼ねするとか、自由がないとか、わがままが言えないとか、損得とか、そんなことではなく、自分がどう感じるか、何が心地いいのかを教えてもらったように思います。
おそらく、Aさんは自分で自分のことを何とかやれる間は、娘さんと同居はしないでしょう。このように考える方は多いのではないでしょうか。
介護保険の限界
Aさんの気持ちのまま、今の生活を続け、入退院を繰り返し、結果として寿命を短くしてしまうので本人も家族も納得できるのか?ということが気になります。
平均寿命が90歳に近づく今、長生きリスクとか、健康寿命とかが話題になるくらいです。Aさんが思うように生活を続けられるなら、「たとえ短命に終わってもいい」という考えもあると思います。
でも、もう少しやりようがあるのではないか、と考えてしまいます。
通常なら、介護保険でホームヘルプサービスの利用が候補に挙がると思います。しかし、Aさんのは心臓が悪いものの、手足の機能に異常がなく、頭もしっかりしているので、要支援にさえもならなかったのです。もちろん、Aさんが訪問調査員に現状を正しく伝えられたのかという疑問はありますが。。。
また、介護保険のサービスを受けられるとしても、「自宅に他人を入れたくない」という高齢者も数多くいます。
私ならどうしたいか
私は、これを埋めるのが、IoTの利用だと思っています。
Aさんの大きな障害だった買い物は、ネット通販やスーパーの宅配サービスが代行できます。体が思うように動かすことができなくても、介護の手を煩わせることなく、自分の意のままに操作できるスマート家電は活躍します。
しかし、残念ながら高齢者の多くがスマホやPCの一歩進んだ利用をしません。「できない」という心理が強く出てしまうのです。中年の方にも同様の心理が働いて便利な機能から遠ざかる人がたくさんいます。ほかには、ネットのセキュリティに対する危惧感が障害になっている方もおられます。
でもね、やらない・やれない理由を探して遠ざかると、楽しい老後の選択肢を狭めてしまうと私は思っています。私が考える楽しい老後のために、IoTには積極的にアクセスしたいと思いますし、理解してもらえる人を増やしたいな~と考えています。