天保十二年のシェイクスピアを観てきた 

観劇のこと
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 浦井健治さん主演の「天保12年のシェイクスピアを博多座に観てきました。この公演は、1月11日初演、1月13日千秋楽の4公演しか上演されない貴重な公演で、劇場エントランスの装飾はなく、ちょっと寂しい感じでしたが、チケットはほぼ完売のようでした。

 この公演には、主演の浦井健治さんの魅力はもちろんのこと、井上ひさしさん作の戯曲であること、音楽を宮川彬良さんが担当していることも相まって、大きな期待をもって出かけていきました。

 上演時間3時間40分(幕間25分を含)結構長いです。堪能しました。

凄いなと思ったところ

悲劇なのに明るい歌と踊り

 開演は木場勝巳さんの口上から。幕が開くと、三角巾を付けた幽霊の歌とダンス。これが底抜けに明るいんですよ。このプロローグを見せられると、「あれ、喜劇なの?」って思いました。笑顔全開で歌って、踊って。宮川彬良が創った音楽が本当に軽妙で本当に楽しいのですよ。

 しかし、本編の大筋は家族の骨肉の争いを描くシェイクスピアの悲劇。その中に喜劇のエッセンスを取り入れたエピソードがあり、暗い内容ながら笑いもあります。歌い踊るシーンは他にも劇中にちりばめられていますので、暗い内容の中でほっとできるシーンでもあります。キャストにミュージカルスターが配されている理由がわかります。

 そして最後も幽霊になった役者が劇場降りで盛り上げてくれます。コロナ渦以降、劇場降りの演出が封印されていたので、とっても嬉しかったです。

持ち味を封じられても圧巻の演技

 シェイクスピア作品をアレンジした演目には必ずついて回る「長台詞」。今回もたっぷりありました。この長台詞をしっかり聞こうとすると、結構疲れます。時には、少々眠たくもなります。きっと作品を作る側も、観客の一部に私みたいな人間がいることをご存じですよね。だからこそ、活舌や声量、魅せる力に優れた役者さんが演じているのでしょうね。浦井健治さんも期待を裏切りませんでした。

 今回の役どころは醜い顔と身体、歪んだ心を持つ悪役「三世次」です。きれいなお顔には広範囲の痣、すらりとしたスタイルを隠して傴僂(せむし)の体型という、浦井健治さんの大きな魅力を封じらていて、勝負しなければならないものでした。

 特に第1幕の「三世次」は登場シーンこそライトを浴びて見せ場もありますが、それ以外はほとんど舞台の端や天井近くから下界を見下ろしているような場面ばかりで、しどころのないものでした。でも、その存在ははっきりとわかりました。

 数々の舞台で主演を張ってきた浦井健治さんの存在感は本物!シェイクスピア特有の長台詞を早口言葉のように語り伝える力は、ミュージカルで鍛えた通る声、活舌の良さが発揮されたものであり、「三世次」が憑依しているのかと思えるほどの悪人ぶりで、圧巻の演技でした。「え~、この人本当にあの王子さまだった浦井健治さん?」って思ったほどです。

 そして、第2幕では浦井健治さんが舞台を躍動します。ここからより本領発揮でした。日ごろは王子さま役の浦井健治さんを観ている身としては、悪役は「えぇっ!?」と思うことが多く、ちょっと辛いのですけどね。演じている浦井健治さんは弾けていて、やりがいを感じているようでした。

 そして、最後の演者勢ぞろいの場面ではいつものおちゃめな浦井健治さんになっていて、改めて「浦井健治さんって凄い!!!」って思いました。

名バイブレイヤーの存在感

 狂言回しを配している演目は、その役者さんの力量が舞台のクオリティを大きく左右しますよね。木場勝巳さん、凄いです。

 開演と同時にこの方がしゃべりだすと、劇場の空気が変わる感じです。落ち着かせるというか、観客が聞く姿勢になりますし、シリアスな場面から笑いを取るシーンまできっちりこなします。

 映像の世界でも名バイブレイヤーとして活躍しておられますよね。こういう役者さんが創り上げる舞台をもっと観たいと思わせてくれました。

個人的に苦手なところ

 任侠にかかる人々が題材なためか、客が遊女と絡むシーンがたくさんあり、結構リアルに演じられています。私、こういった描写のシーンは、映像作品なら普通に見ることはできます。でもね、舞台は役者さんが目の前ですから、とっても生々しいですよね。「もっと他の演出はないのか?!」って思ってしまいます。

 「嫌なら観に行かなければいい」って言われそうですけど、作品紹介のPVなどにはそんなシーンは映っていませんから、わかりません。それこそ、PVでは編集されてしまうくらいのシーンですから、遊女との絡みはそれほど重要ではないのでしょうね。ならば、「あの演出は必要なのだろうか?」と疑問に思ってしまいます。最近の舞台は、こういったシーンの演出が過激になっていると感じるのは私だけでしょうか?

 表現の自由とはいえ、劇場の外であのようなシーンを演じたら警察がやってくると思うんですよ。芸術とは難しいものですね。

おわりにかえて

 何度も再演を繰り返す「天保十二年のシェイクスピア」は見ごたえがあります。上演時間もたっぷりですしね。シェイクスピア全作品の要素を盛り込んだ大作ですが、私は不勉強で知りませんでした。

 井上ひさしさんのメッセージにある「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく」を実現させている作品の一つですよね。そして、木場勝巳さんの「主役はみなさまの想像力」というセリフを受けて、次回この作品を観るときは、シェイクスピア全作品の概要だけでも掴んでいたいと思います。

 次の観劇の予定は2月の「歌舞伎NEXT 『朧の森に棲む鬼』」です。松本幸四郎さん、尾上松也さん待ってますよ~!

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